それは風に向かって 話しかけているようなもの…
傍を吹いて行く君の あまい匂いに振り返り
いつものように抱きしめようとする僕は
あの日から少しの成長もなく 案山子のようにここに
ぽつんと立っている
何羽の燕に髪を齧られても もう痛まない
これが愛ゆえの達観だ… などと言えたら
どれだけ幸せだろうか…
もっともっと愛し合えたはずの二人
もっともっと激しい口論に時間を費やして
そのたびに深まって行く僕らの時間を
別の世界の二人で引き継いで行こう…
泣く君の声が聴こえて来る
僕もおなじ気持ちで 消え去った新居の跡地を何度訪れ
君を探したことだろう…
どうしても二人がすれ違ってしまうのは
あの日 僕が風に生まれ変わったからなのだろうか
でも お互い風ならば溶け合うことが出来るはず
そうなって行くことを信じて 38年目の君の誕生日の
淡いロウソクの火をそっと吹き消す風のように
僕も生きている
--- 〔 気仙沼市 40歳 男性 〕 ---