Requiem 311

#94. 麦畑で君を想う


それは風に向かって 話しかけているようなもの…

傍を吹いて行く君の あまい匂いに振り返り
いつものように抱きしめようとする僕は
あの日から少しの成長もなく 案山子のようにここに
ぽつんと立っている


何羽の燕に髪を齧られても もう痛まない

これが愛ゆえの達観だ… などと言えたら
どれだけ幸せだろうか…



麦畑



もっともっと愛し合えたはずの二人

もっともっと激しい口論に時間を費やして
そのたびに深まって行く僕らの時間を
別の世界の二人で引き継いで行こう…


泣く君の声が聴こえて来る

僕もおなじ気持ちで 消え去った新居の跡地を何度訪れ
君を探したことだろう…

どうしても二人がすれ違ってしまうのは
あの日 僕が風に生まれ変わったからなのだろうか


でも お互い風ならば溶け合うことが出来るはず

そうなって行くことを信じて 38年目の君の誕生日の
淡いロウソクの火をそっと吹き消す風のように
僕も生きている





--- 〔 気仙沼市 40歳 男性 〕 ---

Brian Crain - Moonlit Shore


BACK <<< HOME >>> NEXT