Requiem 311

#59. あるビジネスマンの旅立ち

既に崩壊寸前だった夫婦仲

それをどうにかしようと 毎日ここに来て
考えごとをしていた

考えたからって どうにかなるものではないと
同僚にそれとなく仄めかされた 別離 の予感を
ここで払拭してから帰宅した日々


働いて働いて 主(あるじ)らしく振る舞ううちに
僕はやがて 僕ではなくなって行った…

だけど君は 本当の僕自身よりも
働く主(あるじ)を強く求めるようになり
やがて二人から完全に
愛だけが消え去った








いっそゲームみたいに
何もかもがリセットされれば 気が済むのに…

そう思った矢先に訪れた
本当の すべての終わり

まるで背中を押されたみたいに
流れに身を任せた数分間


壊れたコンクリートの塊や空車が
水辺の玩具かガラクタみたいに散乱し
体のあちこちをぶつけて行くうちに
少しずつ気が遠くなって行った


だけど…

結婚してから ずっと苦しみ続けた13年の月日から
これで ようやく解き放たれると思った

同僚が思っていたよりも きっと
僕は本気だったんだろう



どんな姿になってもいい

心の底から自由になれるとしたら
たぶん 今しかない…

そう 確信した




--- 〔 南三陸町 40代後半 男性 〕 ---

Lost and Found


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