Requiem 311

#74. ちいさな団欒

ずっと静かだったこの家に
やっと会話が戻って来る

弟を身篭ったママと 野球が好きなパパと
そして飼い犬のマルチーズと…

オスでもないのに ケン坊と名前のついた彼女は
一人でご飯を食べられない 寂しがり屋の子だったから
そんなに弱気じゃ生きてけないよ… と言って

父が勝手につけてしまった
可愛い仕草には似つかわしくない名前







誰かが持って来た 淡いピンクの薔薇が
水をもとめて 空へと茎を伸ばして行く

棘がなかったらとっくに
ケン坊のおもちゃになってたピンクの薔薇は
何故かとても淡くて
日に日に輪郭がぼやけて行くみたいに儚くて

それでもこうして囲む食卓
大好きなご飯と茄子の煮びたしを
あれから毎日ママが作ってくれるようになった


雨漏りのするこの部屋を 誰かが改築してくれた

時々隣から届く話し声も
最近は気にならない…




出産予定日は九月半ば
どんな赤ちゃんが生まれて来るんだろう…

時々ママのお腹を撫でて その鼓動を聞いてみる
家族三人 プラス 一人と一匹




--- 〔 南三陸町 中学生(推定)女性 〕 ---

MENTAL DETOX―夕日の頃


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