誰もいないはずのこの家
もう跡形もない… この家
でもここにはまだ 家族の心が棲んでいる
ただいま… と言えば おかえり… と言って返って来る
家族の声
こだまみたいに…
かなしみよりも安らぎの中に棲みついた
僕と両親と 兄と妹とが囲む食卓は
まるで霧がかかったようにぼやけている
もう あの日のことは問わない
以後二度と口にすることもないだろう
あの日を境に変わってしまった今よりも
三月十一日が訪れるその前を 僕らは淡々と繰り返す
人はそれを呪縛と言うのだろうか…
いや そんなことはない
今 思い出せるかぎりの幸せの中に 肩まで沈んで行くことで
永遠に途切れない家族の絆を感じてる
ふっと碁盤から窓へと視線を移した父が言う
“記念写真でも撮ろうか… …”
--- 〔 大船渡市 20代前半 男性 〕 ---