Requiem 311

#82. ポートレート

誰もいないはずのこの家
もう跡形もない… この家

でもここにはまだ 家族の心が棲んでいる


ただいま… と言えば おかえり… と言って返って来る
家族の声
こだまみたいに…


かなしみよりも安らぎの中に棲みついた
僕と両親と 兄と妹とが囲む食卓は

まるで霧がかかったようにぼやけている



ポートレート



もう あの日のことは問わない

以後二度と口にすることもないだろう

あの日を境に変わってしまった今よりも
三月十一日が訪れるその前を 僕らは淡々と繰り返す


人はそれを呪縛と言うのだろうか…

いや そんなことはない

今 思い出せるかぎりの幸せの中に 肩まで沈んで行くことで
永遠に途切れない家族の絆を感じてる





ふっと碁盤から窓へと視線を移した父が言う

“記念写真でも撮ろうか… …”




--- 〔 大船渡市 20代前半 男性 〕 ---

Steve Roach The Other Side 1988


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