暖かい土地からここに 移り住んだのは
貴方への想いゆえ
愛 ゆえのことだった
あり余る土と緑と光から生まれる
命と 潮風と…
子供に戻って すべてをやり直せるかもしれない
早朝の月を 泣きながら裸足で追いかけた
祖国の貧しい日々を
今なら断ち切れるかもしれない…
だけど 遅い春の訪れは
私を再び海へと押し戻した
指先に染み付いた乳の臭い
足に残る土と 乾いた木の葉の感触と
硬く軋む古びた新居の床の音
襲い来る 背後の波の気迫
聞き取れない異郷の言葉の渦中に
ただ呆然と立ち尽くす
もうこれまで もうここまで
“二年後には 海辺に小さな店を持とう…”
初めて貴方があんなに優しくなったのは
春の終わりの 前ぶれだったことに
今さら気づいたとしても…
ハヤク ハヤク… ハ ヤ ク …
急き立てるみたいなあの人の声は
私を素通りして
その町の女たちに救いの手を差し伸べた
ねえ? あなた…
私はどうすれば良かったの?…
廃屋に体を覆われたまま
今もそれだけを あの人に問い続ける
--- 〔 陸前高田市 40代 女性(国籍不明) 〕 ---