Requiem 311

#58. 受難

禁止区域と書かれたこの場所で
何が起きているのかは 多分誰も知らない

悔恨の末 そうするしかなかった
見知らぬ労働者の震える指先で
静かに
静かに 弔われて行った私たち


助かるはずの命もあった

あの引き波の直後に 言葉を交わした父の声

きっと誰かが助けに来てくれると信じて
“ 頑張れ ”
“ 頑張ろう ”… と
共に声を掛け合った被災者たち

その声がひとつずつ消えて行く かなしい現実を
神様でさえ
止めることが出来なかったのは

なぜ…?








30年間 信じ続けて来たものが
一瞬にして崩れ落ちた あの絶望の中

それでも私は アーメン… と
繰り返し心の中で 叫び続けた



妄想の中の女神の微笑みは
信仰者たちの苦難を前に
それでも微動だにしない ただの銅像だったこと

そのことに気づくには あまりに遅すぎた…


それでも何度となく 私は神を呼んだ

降りて来るはずのない 神の名を
必死で 叫び続けた





--- 〔 南相馬市 40代 女性 〕 ---

Petite Tristesse ( Andre Gagnon )


BACK <<< HOME >>> NEXT