Requiem 311

#55. 花束

生まれて来る子供の名前を 考えていた
五月に生まれる女の子だと分かっていたから

さつき がいいね… って話す君の目が
零れ落ちる露のように潤んでた


人生設計が大好きな君と 僕と そして彼女と…

海沿いに小さなレストランを開くのが
ちょっとした夢だったから
そのために貯金もして
やっと建てた小さな家


最初で最後の来客は 海だった








逃げ遅れそうな君を 最後はおぶって
必死で坂道を駆け上がって行った

体力がある方ではなかったし
途中から何が起きたのか もう今では覚えていない


長い眠りから醒めてみると そこは見知らぬ地
荒れた砂地に僕は眠っていた

助かったんだ… そう思って
最初の一歩を踏みしめてみる

そしてもう一歩 さらにもう一歩…

まるで雲にでもなったみたいにそれは 軽やかな一歩ずつ



こうしてはいられない
君を迎えに行かなくては…

僕は瓦礫の間に隠れるように咲いていた
ありったけの白い花を摘んで
それを靴紐で結いて花束にした


生まれて来る娘と 君を想いながら…




--- 〔 行方不明 30代 男性 〕 ---

Kevin Kern - Pastel Reflections


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