海が友達だと思っていた
どんな波も 自分に味方してくれると過信していた
それが浅はかな人間のエゴだったのだと
身を挺して知らしめてくれた者の あの叫びは
人生最高の宝物のように思える
今 この場所をしとねに選んだ僕だから…
最後の真昼は突然訪れ
僕は二度生き返り そして力尽きた
死と 長い間隣り合わせに生きていた
死と 長い間向き合って
海と付き合って来た
海を遊びの道具にして
そこで生かされている日々の幸運は
既にその効力さえ失っていた その矢先に起きたことだから
非力さを身に沁みて痛感した
あれは最後の真昼だったのだ
そしてわかったことは
死とは 思いを伝えるすべを
全て失う悲しみだということ
そう思っている今の自分を
誰にも知らせるすべさえ持たないという事実
いつまでも鮮明な記憶だけが
永遠に残るという事実
海が友達だと思っていた
どんな波も 自分に味方してくれると過信していた
あんなに陽気だった波音が一瞬にして
悪夢に変わって行く瞬間を
海の真上でつぶさに見せつけられたことを
僕は今 誰にも伝えられず
重い瓦礫の船底から太陽を見上げ
朽ちた叫びを上げている
--- 〔 行方不明 宮古 30代から40代の男性 〕 ---