Requiem 311

#44. なかったことのように

あの人たちは知らない
黙祷の声が響く海面を
ここで見上げてる人がいることを

復興を願い すべてはなかったことのように
明るく明るく拳を上げる 海の労働者を
ここで見上げる人がいることを…


一番悲しい そして後のない現実…

人の最期の姿から目を背けようとする 彼らの祈りは
ほんとうはどこに向かっているのだろう…






もぎ取られた私の一部
それをなかったことみたいに 海の中へ引き戻した海の労働者の
あの 勇敢な手の感触が懐かしい

父も 漁師だった

その父もたぶん この海のどこかに眠ってる


明暗の淵で息絶えた者の その後の姿を見ようとはしない
あの人たちの祈りは
どこに向かっているのだろう…




私の体の一部はまだ あの網の中にある





--- 〔 行方不明 大船渡付近海底 10代から20代の女性 〕 ---



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