空(から)のベッド
捥がれた布団にはまだ 温もりが残っていた
初日の 君の匂いが染み付いて
この右腕を捉えて 離さない
黙ってどこかへ行く 君ではない
ただいま… と言って 今にも帰って来そうで
寒いのに窓を閉めることが出来ない
君を 求めて ゆらゆらと放浪者みたく
記憶にある道を辿り 何日も彷徨い続けた
だけど 体が凍りついたみたいに冷たくて
ここで止まったっきり
もう… 一歩も動けなくなった
本当は 風が 僕を通過しているだけだった …
愛の真っ最中の出来事だった
たぶん 最初で最後の
抱擁のさなかの出来事だった
--- 〔 行方不明 晩婚夫婦の夫(50代前後) 〕 ---