誰が悪いわけでもなかった
だから 恨みも何もないけれど
僕が 僕ではなくなるその時までの あの苦しみだけは
どうしても忘れることができない
お腹を空かせふらふらと 震える両脚を折りたたんだ時
黒い満月が僕を見ていた
それでもあの人が 僕を迎えに来ると信じて
信じて 信じて… 信じて…
そして 主(あるじ)は 僕が力尽きた後に帰って来た
駆け寄りたくても もうそれが出来ない僕に
ごめん の一言と小さな花が手向けられ
乾ききった体がようやく 土に戻って行く
動けない僕に まだ微かに残る感覚 感触
もう 誰に撫でられることもない この体…
まるで 得たいの知れない未練のように
今ごろになって 何もかもが愛おしい…
--- 〔 南相馬市内 小屋に鎖で繫がれ放置されたまま旅立った柴犬(♂) 5歳から6歳ぐらい 〕 ---