孫に手紙を書いていた
妻も息子も そして兄も
既にこの世界を後に 違う場所へと移り住んだ矢先の
たった 一人の春だった
バイトをしながら 東京の大学に通う凛々しい孫へ
あまり上手ではない文字で 書く
元気にしてるか?… の一言
それを 嬉しいよ と言って電話をくれる孫は今
私を必死に探して
あるだけの安置所を回っている
私はここにいるよ
折れた桜の木の根元の 瓦礫の中から
あの日まで目の前に広がっていた
茶畑の跡を見ている
懐かしい匂いと来たる夏の日差しに埋もれ
私は日に日に 風と化し
元の姿に還って行く
もう 筆すら握ることの出来ないこの掌に
最後の手紙の切れ端を 握り締めたまま
--- 〔 行方不明 70代か80代 男性 〕 ---